議会報告

2012年12月定例会 高知県こども条例議案への反対討論 中根佐知議員

私は日本共産党を代表し、ただいま議題となっています議発第1号、「高知県子ども条例」議案に反対の立場で討論を行います。

現行「高知県こども条例」は、条例の基本となる法律を「日本国憲法」と、1989年に国連総会で採択され1994年に日本政府が批准した『児童の権利に関する条約』にもとづくものであることを前文で明記しています。『児童の権利に関する条約』別名、こどもの権利条約は人類が長い間紆余曲折を経て培ってきたこども観の到達点を、国際社会の約束という形で表現した、人類の倫理的声明です。古いこども観や教育観は、子どもを大人と対等の権利を持つ人間と規定せず、大人や保護者の持ち物として、大人の庇護のもとに育つものとして扱ってきました。しかし今、子どもの権利条約を世界の193カ国が批准する国際情勢の中で、社会や大人がこどもを一人の人間として認めることが全ての出発点となることが、世界の常識になりつつあります。批准した国は自国の子どもに子どもの権利条約の理念を学び広げ、具体化する責務をおっています。

ですから日本国憲法と児童の権利に関する条約に基づく現行の高知県こども条例は、児童の権利に関する条約が求めている「権利の行使主体としての子ども観」の実質部分をわかりやすい形で、こどもに理解できる言葉であらわしています。

第1章の(めざすもの)「全てのこどもが、自ら考え行動し、夢や希望を持ち続け、自然や郷土を愛し、心豊かに健やかに育つことを目的とします。」から第2章から第4章までに、主体者としての権利を明示し、古いこども観や教育観から抜け出す意見表明権を示し、取り組みの根拠としています。あるがままで愛されること、自分の権利を知ること、夢を持ち続けること、人と交わる、自然と交わる、文化と交わる、感じたことを素直に表現し、意見表明する、自分を表す権利などが、児童虐待やいじめ問題が後を絶たない現代社会だからこそ、対等に声を上げられることを自覚することは、不利益や矛盾を解決していくために国際社会が到達した出発点であり、いわば、この条例の心臓部です。

この一番大事な、大人と対等な人間として認められ、意見を述べるこどもの権利明記を、「改正高知県子ども条例案」では全て抜き去り、代わって大人が子どもを育てる責務ばかりをかきこんでいます。これでは、現行こども条例とは全く異質の、大人のための子育て責務条例になってしまいます。

これだけ性格の違う条例改定案を提出し、自民党提案の「高知県子ども条例」の冒頭には「高知県こども条例の全部を改正する」と明記しながら、提案者は「日本国憲法も、児童の権利に関する条約も認めた上なので、よって立つ基本の法律は書き込む必要がない」「現行こども条例を認めた上での改正案なので、新たにパブリックコメントをとる必要はない」と言い放っています。が、これら、根拠法と権利の内容、つまり大事な骨格部分が明示されていない今回の提案条例は、現行条例の精神を引き継ぐものではありません。子どもの権利と現行子ども条例を正しく理解していない乱暴な条例改定の提案です。

また、全部改正提案の理由に、「子ども条例の制定から8年余りが経過する中で、子どもを取り巻く社会環境は著しく変化をし、悪化の一途をたどっていること、そういった社会環境の変化に危機意識を持ち、こうした問題にしっかりと向き合う条例が求められている」と述べられていますが、いじめや虐待問題の解決のためには、現行の条例でうたわれている子どもの意見表明権を周知しながら、推進行動計画を豊かなものにしていくことが一番の近道です。残念ながら、現在の高知県は、すべてのこどもたちが生まれてきてよかったと実感できる県には到達していません。だからこそ、社会や大人が子どもの成長を応援することはもちろんですがこどもの視点に立った調査、調査に基づく計画、計画の実施、実施後の検証、検証に基づく計画の変更を繰り返していかなければなりません。そのときに、一人の人間として意見を持ち、大人社会に対しても子どもの視点で発言することが、社会の中でのこどもへの不利益をなくすことにつながるのです。

県こども条例の認知度はまだ高くありませんが、子どもの意見表明が、権利と認められない社会状況や強い立場の人間におかしいと思っても言えない状況が多々ある中で、高知県版の子どもの意見を反映したこども条例に、よってたつ上位法令を明記してつくったことは、屋重屋を重ねることにはなりません。基本となる法律を意識することこそ子どもの権利条約の原点を常に見つめ、立ち返って検証することになるのです。

全部改正の子ども条例案には、立ち返る基本法を明記していません。こどもの尊厳や、大人の責務で書き表されている道徳心や倫理観・規範意識を何によって推し量るのでしょうか。今回の全部改正は、実効力のある条例への改正どころか、検証する基準をなくし、大人の責務を子どもにおしつけるものになってしまいます。この点からも、この条例全部改正案は、撤回するしかありません。

現高知県こども条例は2004年7月26日、県としては全国に先駆けて成立しました。自由民権運動発祥の地、婦人参政権発祥の地に相応しい全国に誇れる採択と言えるものです。子どもの権利条約をもとにした、行政主導ではない県民主体の条例づくりは、2001年4月からあしかけ4年の歳月をかけ、高校生など子どもたちと多くの県民の参加で、県民みずからが考え、行政とともにつくっていくという、今までにない画期的なプロセスを経て作成されたものです。

この条例作りの手法と、今回の条例全部改正案の手法はあまりにも違います。

十分な検討時間もない、県民ぐるみで作り上げた過程を無視してパブリックコメントもとらない、主体者であるこどもの意見は聞く意志もない。あまりにも乱暴な手法に、さまざまな子どもの権利条約に関わる団体からも声明・アピールがだされました。

弁護士実務を通じてこどもの虐待、少年非行、教育問題など、こどもを取り巻く問題全般に携わっている高知弁護士会からは、常議員会の議を経て、こども条例改正に関する会長声明を県議会議長宛に送付しています。そこには、「今般、こども本条例につき、こどもたちの関与の全くないままに改正の審議がなされようとしている。本条例は、他の条例と異なり、多くのこどもたちが主体的かつ実質的に参加して制定された条例であるところ、本条例の改正の審議が、権利主体であり、かつ、制定課程に参画したこどもたちの関与なしに、県議会のみの判断で、拙速に進められることになれば、条例の制定の経緯を無にしてしまうものであって大いに問題がある。こどもたちの意見を時間をかけて十分に聴いた上、その意見を反映した慎重な審議がなされるべきである。」と書かれています。また、子どもと教育を守る高知県連絡会などをはじめ、県内9つの団体からは、「現条例の作られた経緯をないがしろにしたもの、現条例と全く違う物であること、改正する理由が不明確であること、条例が個人の内心に介入し押し付けるものであること」などをあげて、改正に反対するアピールが出され、この声は全国に広がり、こどもの権利・教育・文化全国センターからも改正案に反対の要請文が届いています。

また、この条例の実行に参画し、「とさっ子タウン」や「フォーラム」でがんばってきたこどもの中からは、「僕たちは何か悪いことをしたんだろうか」などの意見が聞かれ、拙速な条例改定案に不安が広がっています。

以上述べまして、議発第1号高知県子ども条例議案に反対し、討論を終わります。ありがとうございました。